経営者は一番に社員から信頼を得て事業を発展させなければならないが、もう一つ株主との関係にも最大の注意をもって臨み、同じく信頼を得なければ事業はうまく運ばない。
株主は投資先企業からの利益還元を配当として受け取れる。必要があれば、保有株は流動性のある財産として売却できる。そういう意味で受益権や財産権としての所有権は確かにある。しかし、会社は、不動産投資における土地建物という意味での所有物ではない。会社に帰属する商品や固定資産(土地建物含む)は会社の所有物であって株主のものではない。請求権やのれん、特許権などの無形資産、もちろん現金も会社の所有物である。
また、株主は会社の目的(定款)を変更できるし、運営責任者(経営者)を指名選任し、解任もできる。それは投資不動産を商業ビルから住宅用に変えたり、管理会社を変更できるのと似てはいるが、会社の経営者と異なり、委任契約先のビルの管理責任者は財産保全の責任は持つが、収益責任は負わない。
同じく経営者も株主とは委任契約の関係にあるが、直接の雇い主は所有者ではなく会社である。経営者とは、究極的には株主から委任を受けているが、実際は会社に雇われている身である。
つまり、株主は、その法人格をまるごと所有するのではなく、会社が生み出す収益の一部を請求でき、かつ収益の源泉の所有を主張できる権利者で、ちょうどタレントの権利を握っている事務所あるいはパトロンみたいなものかもしれない。
一方、経営者は、会社の代表であり、法人格の代理人という立場である。経営者を雇っているのは会社であり、会社がその報酬を払っている。
では経営者は、委任先の株主のために働くのか?
雇い主の会社のために働くのか?
会社の事業が成功し、それが株主のメリットにつながれば問題はない。
だが、一部の株主の思惑によって会社が疲弊したり、存続が危ぶまれたら?
会社が成功を収めても株主との関係が悪く、経営者が辞任を迫られたら?
経営者には企業の存続と雇用の維持という社会的使命も負わされている。それが株主の利益と相反したときはどうするのか?
そんな微妙な関係をわかって、バランスよく付き合わなけなければならない。