一つの会社に長く勤める意義

就業者の中で過去1年間に離職を経験した人を転職者として、転職率とは労働者に占める転職者の割合のことだそうだ。最近の統計調査によると10%つまり10人に一人の割合で転職しているということになる。特に20~30歳代では12%で40~50歳代では5%ということで若い世代はより転職率は高い。

この数字が高いと捉えるべきか低いと捉えるべきか?米国では30%程度、3人に一人という割合であるということを考えると必ずしも高いとは言えないのかもしれない。それでも昭和の時代の年功序列・終身雇用が浸透していた頃と比べれば若い世代を中心に流動性が高まっていると言われている。

1990年代バブル崩壊後の経済低迷の時期に企業は組織の活性化と優秀な人材の確保,とくにIT時代を迎えるにあたりリテラシーの高い若い人材を確保するために今までの「年功序列・終身雇用」制度から「成果主義・ジョブ型雇用」制度へ移行を図った。また、2000年に入り小泉政権下で自由化の波により規制緩和と雇用義務の緩和により正社員から派遣社員への比率増加と流動化は進んでいく。少子高齢化による人手不足も相まって求人倍率も高止まっていることも後押ししている。

企業としては若い優秀な人材を確保するための制度変更が、かえってそういった人材の流出を生み出したと言えなくもない。若手とはいえ、いずれはベテランとなる。ベテランとなっても活躍の機会も出世の機会も与えられず、成果が出なければ報酬は上がらず、最後には切り捨てられるかもしれない。そうであれば若いうちに条件の良い環境へ移り、いずれは雇用者側を目指すというキャリアプランは自己防衛として考えれば当然の傾向といえよう。

ところで「年功序列・終身雇用」制度と「成果主義・ジョブ型雇用」制度の違いはなんだろうか?

 年功序列・終身雇用成果主義・ジョブ型雇用
メリット会社に対する帰属意識が高まり、定着率向上につながる。 若手社員の育成をスムーズに行える。 人材評価コストの削減が期待できる。チャレンジ精神やモチベーションの向上。 優秀な人材を確保しやすい。 人件費の無駄を削減できる。  
デメリットチャレンジ精神やモチベーションの低下。 社員の高年齢化による人件費の高騰。 有能な社員が育ちにくく離職しやすい。ノルマ達成を重視するあまり職場の人間関係が悪化しやすくなる。 賃金格差によるモチベーションの低下を招くことがある。 部署によって評価基準の設定が難しい。  

表を見る限り、「チャレンジ精神」と「帰属意識」、「優秀な人材」と「若手の育成」、「人件費」と「評価基準」という3つの対立軸があるようだ。とすると、単純に考えれば、「チームワークがなければできない長期に亘るチャレンジの機会がつぎつぎあって、学習の機会と成長が望めて、一人一人の生産性が高く、それに対応する適正な評価基準と報酬」となるような制度があれば企業も社員もハッピーということになる。

失敗を恐れず次々とアイデアをプロジェクト化して挑む企業文化とチームや部署ごとの予算裁量権や社員のローテーションとリスキリング、組織成果と個人成果のバランスとコミットメントなどが考えられるが、それらを社員全員との合意を取ることが肝心かもしれない。そんな企業があったら長く勤めたいと思うだろうか?

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